BOOK GUIDE
−ブックガイド−
                                            
●6月の紹介
私たちが住みたい都市 徹底討論 身体|プライバシー|住宅|国家 工学院大学連続シンポジウム全記録 『徹底討論 私たちが住みたい都市
―身体・プライバシー・住宅・国家 工学院大学連続シンポジウム全記録


<著者>工学院大学連続シンポジウム全記録 山本理顕

<発行>平凡社

<価格>2,200円(税別)
 
 本書は、「都市のかたち、時代のかたちを問い直し、21世紀の住み方をめぐっての…」の4人の建築家と4人の社会学者・哲学者との熱い討論の記録である。
 全体を支配しているテーマは、もちろん建築でありその住人との関係であるが、<私たちが住みたい都市>という言葉の裏には、“今私たちが住んでいる都市ではない”というニュアンスが参加者ににじみでている。
 「むしろ反対方向につくり直されているように思うのです。ではどんな都市をこれからつくっていくべきなのか」(山本理顕氏)を考えてたい、という。具体的に言い換えれば、CO2の削減を求めた京都議定書や、気温を2度以上上げないためのヴィジョン発表した滋賀環境科学研究センターの動きなどを持ち出すまでもなく、≪持続可能な社会≫の実現のために私たちに求められているのは、生活革命であり、都市の住み方(集合住宅のありよう)の革命でもあるような気がする。
 本書では、広い意味での都市建築も対象として論じられてはいるが、主には1920年代以降からの近代的な集合住宅として政府主導(住宅公団等)で構想・計画・建築された都市型集合住宅の建設をメインテーマとしている。いわゆる建築史上<住宅の55年体制>と言われる画一的な都市建築によって何がもたらされたのかということである。
 最初に山本理顕氏は、『集合住宅が始まり、ユニットの増殖、あるいは反復という形で私たちの生活の住まいの形ができていったことが、個人のあり方、家族のあり方を定型化、標準化していくことになって、建築史では画期的なことだったけれども、あれは本当に良かったのか』と問いを投げる。
 皆さんも是非一読あれ。
 
 
●4月の紹介
本当にいいマンションの見極め方 『これさえ読めば、不安解消!本当にいいマンションの見極め方』

<著者>長嶋 修(株式会社さくら事務所取締役会長)

<発行>株式会社インデックス・コミュニケーションズ

<価格>1,400円(税別)
 
 耐震強度偽装問題で揺れる住宅環境。これは今までにはなかった、工事の前提となる設計段階での偽装が発覚したために、国民の多くがショックと不安を覚えたのではなかろうか。
 本書は、これからマンションを購入しようとする読者を対象とはしているが、区分所有者にとっても、自マンションを見つめ直すには絶好の書である。
 耐震強度偽装問題以来、マンション業界の信用は低下の一途だが、そもそもの根底には「購入者のニーズ追求」という意識があるという事実がある。消費者の建物にとっての本来重要な構造部分への興味が高まらず、目先の豪華さにとらわれている限りは、このような問題の解決には結びつかないであろうと筆者は言う。
 そして資産性が「土地」から「建物」の時代へと移行するとともに、土地の「所有価値」から「活用価値」への転換がおこっている。
 また、筆者のさくら事務所での建物診断(インスペクション)の経験からの具体的な住宅購入時のチェックポイントが列挙されている。これは区分所有者にも有益な内容であろう。
 住宅選びは、賃貸、分譲にかかわらず、立地や買い時などの条件で選ぶのではなく、ライフスタイルで選ぶ時代を迎えている。住宅という価値観の転換時期にある現在には最適な書である。
 
 
●2006年2月の紹介
積算資料ポケット版 マンション修繕編 2006前期 『積算資料ポケット版・マンション修繕編 2006前期』

<発行>財団法人経済調査会

<価格>3,600円(税込)
  
 以前にもご紹介した「マンション修繕マニュアル」がリニューアルされ、B5版がA5版のポケット版となった。更にうれしいことは価格6,800円から3,600円へと大幅に値下げられ、求めやすくなったことだ。
 昨年は、アスベスト問題から耐震偽装問題、堺市の団地での柱・梁の貫通ミスなど集合住宅を震撼とさせる問題が次々と起こった。そんななか、本誌の「最新技術情報・マンション再生とそのメニュー」での山口実氏のマンション再生に対する現実を見据えた具体的な手法の提言は、マンション管理の未来に確信が持てる内容となっている。価格編の工事費用や管理費用も改訂されて、今回は専有部分工事価格の情報も新たに加わった。
 管理組合にとって、マンションを巡る情報がまだまだ少ないなか、長期修繕計画の見直しなどにも活用されている「マンション修繕費用」は、一つの目安となろう。
 
 
●12月の紹介
図解マンション給排水の知識101 日常管理から大規模修繕まで 『図解 マンション給排水の知識101−日常管理から大規模修繕まで−』

<著者>山口 実(建物診断協同組合理事長)

<発行>財団法人経済調査会

<価格>3,333円(税別)
 
 この本は設備の専門家が書いたマンションの設備の解説書ではない、マンションの専門家が書いたマンション設備の解説書である。
 これまで建築や法律の専門家によって書かれたマンションの解説書はたくさん出版されているが、素人が読んでも理解しにくい書物であることが多かった。その理由は、書き手が読み手のことをよく知らないことが原因である。一定の知識を前提に専門用語を使って無造作に書かれている場合が多いのである。
 しかし、本書はそういったこれまでのマンション解説書とは無縁の本である。設備の素人が読んでもよく理解できるように書かれている。その理由は、著者自身がどのように表現すれば読み手が理解できるかを心得ているからである。著者の長年にわたるマンションの現場における管理組合の人たちとのコミュニケーションの蓄積の賜物である。
 マンションの建物管理のことをわかりやすく書いた本は少ない。さらに設備のことを書いた本となると、ほとんどない。それだけに著者の現場における経験を体系化して書かれた本書は、著者と管理組合の人たちとの相互理解が生み出した優れたコミュニケーション能力を表した本ともいえる。
 年数が経過し、設備管理が重要性を増す高経年マンションの管理組合の人たちにとっては、まことにありがたい本といえるだろう。
 
 
●10月の紹介
『ここが危ない!アスベスト〔発見・対策・除去のイロハ教えます〕』

<著者>アスベスト根絶ネットワーク

<発行>緑風出版

<価格>1,800円(税別)
 
 天然の鉱物繊維であるアスベストが、近代工業化社会の発展の中で、便利な原料として利用されてきたこと、悪性腫瘍を引き起こすことがわかり、使用を制限していった経緯などがよくわかる。
 どこに使用されているか、建物の新築工事、解体工事の時の注意点も実践的に説明されている。阪神大震災では、十分な対策がとられずに解体工事が進められたため、アスベストの飛散が問題となった。地震などに限らず、改修工事の際に注意すべき事柄も参考になる。
 一貫して消費者の視点から書かれているため、かゆいところに手が届く構成になっている。相談窓口・問い合わせ先なども豊富に掲載。
 何事も正しい知識が適切な対応につながる。情報の氾濫状況のなかで、“敵”をじっくり見極めたい方にお薦め。
  
  
●8月の紹介
『マンション福祉マニュアル〜終のすみかに向けて〜』

<発行>NPO法人福岡マンション管理組合連合会

<価格>2,000円(税込、送料390円)
 
 築30年以上のマンションは、現在44万戸が10年後には140万戸に急増するなか、高齢化対策においての課題はますます大きい。
 この度、全管連(NPO法人全国マンション管理組合連合会)の加盟団体で、最大の452組合が加入する福管連から『福祉マニュアル」“居住者がつくる居住者のための福祉マニュアル”が発刊された。
 第1章の「規約改正と福祉の推進」では、福祉マンションの実現に向けた対策について管理規約改正の際に@本マンション居住者の福祉に関する業務A地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成を業務として入れるよう勧めている。第3章の「助け上手の助けられ上手になろう〜マンションの福祉を語り合う〜」では、孤独死をなくす活動や管理組合と自治会の二本立てでの高齢者支援活動、更に行政の支援を利用しての地域に密着した様々な実践例が紹介されている。
 さらにハード面では、高齢者が孤立しないように、共用部分のバリアフリー化改修の事例も写真やイラストで丁寧に解説されている。
 「終わりに」の福祉委員からの熱いメッセージには目頭が熱くなってしまった。福祉委員とは、福管連のなかの専門委員会で、福祉に関する調査をし、会員マンションにアドバイスをする積極的に活動する勉強会。本マニュアルはこの福祉委員らによって2年をかけて作成された。
 マンションには子供や障害者、高齢者など色んな世代の人が住み、誰もが老いていく。本マニュアルは、高経年マンションのみならず、すべてのマンション住まいの方に、この“人にやさしい福祉マニュアル”をぜひ利用していただきコミュニティを考えるきっかけとなることを希望する。
 購入の申し込みは、福管連(092)752-1555まで。
    
 
●6月の紹介
『マンション修繕費用05後期版』

<編集>大規模修繕単価研究会

<発行>財団法人経済調査会

<価格>6,800円(税込)
 
 工事価格情報誌『マンション修繕費用』が、一昨年の11月に創刊されてから、はや4冊目となった。今号の特集記事は「知っておきたいマンションの外壁リニューアル」、「外壁補修・改修と仕上げ材料の最新動向」、「管理組合が注意したい計画修繕のトラブル」。
 最新技術情報として、「集合住宅におけるメータユニットの採用」、「さや管ヘッダー工法とは」などを取り上げ、工事・見積事例集ではグレードアップ工事(エントランスとエレベータ改修、スロープ設置など)を中心に5事例を掲載している。
 「管理組合が注意したい計画修繕のトラブル」では、コンサルタントで混乱が増幅した例や、業者を弱い立場に追い込んで何でもサービス工事を要求する管理組合の例などのトラブルから学べることも多い。
 価格編は、全工種で掲載価格を改定。掲載項目の追加、見直しも実施され、掲載価格は経済調査会保有の建築費データとの照合などを経て、決定されたという。首都圏(4都県)と京阪神3府県のデータが掲載されている。
 また日常管理では、エレベータメンテナンス費用などでは東京と大阪の価格を掲載。工事業者の受注競争が激しく市場価格が不安定といわれるなかで、一つの目安となろう。
 ちなみに、本書の内容はさておき、「6800円は高いわなぁ!」との管対協会員の声も少なくない。私も同感である。発行元の話しによると、「熱心な管理組合活動を行っているマンションからの購入申込が多い」とのことであるのだが…
     
   
●4月の紹介
大震災10年と災害列島 『大震災10年と災害列島』

<著者>塩崎賢明、西川榮一、出口俊一

<発行>クリエイツかもがわ

<価格>2,310円(税込)
 
 昨年は日本の各地での台風被害・新潟県中越地震、また海外ではスマトラ沖地震が発生した。更に先月は予想もされていなかった福岡県西方沖地震が起こり、まさに“災害列島”の年であった。
 そんな中、阪神・淡路大震災から10年が経った今、本書を出版したのは、被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標とし、調査・研究、政策提言を重ね、情報発信をしてきた民間団体「兵庫県震災復興研究センター」である。執筆者は56名からなる被災者、研究者、ボランティアなどで、あらゆる角度から災害列島日本の備えるべき課題を網羅している。
 兵庫県・神戸市が被災者の「人間復興」よりも、千載一遇のチャンスと開発型復興を優先し、各地区で復興開発がなされていったが、今でも新長田の再開発の、これまで完成しているビルの商業スペースの26%はシャッターが下りており、まさに住民不在で先が見えない状況も描かれている。また、十分に復旧可能な被災マンションでも、神戸市が紹介したコンサルタントが建替えに誘導した事例や、その他孤独死もんだいなどについても検証・教訓を述べている。未だ大震災は終わっていないというのが実感だ。
 長野県、鳥取県、高知県の各知事の災害への備えについてのインタビューも掲載。マンション住民や地域の自治会、さらに行政の方々にもぜひ読んで頂きたい一冊である。
 
  
●2月の紹介
『問題解決ファシリテーター』「ファリシテーション能力」養成講座

<著者>堀 公俊

<発行>東洋経済新報社

<価格>2,200円(税別)
 
 本書は「組織のパワーを引き出し、優れた問題解決に導くためにどうしたらよいか」をテーマにファシリテーションという新しい概念を紹介している。
 ファシリテーションとは、英語のファシリテート(促進する。容易にする。円滑にする。スムーズに運ばせる)の名詞形で、ここでは問題解決のための組織運営の技術をいう。ビジネスの分野での活用に限らず、管理組合の理事会や自治会の役員会などでも取りいれるべき技術であろう。
 これらの組織は、居住者の集まりであり、様々な人々で構成される。こうした会議では、進行とは関係ない話を飛び交わす“困った人”に悩まされることがある。とにかく話の長い人、思いつきで的外れの発言をする人、同じ話を繰り返す人、専門知識をひけらかす人、批判的で反対を続ける人、意見を言わず歯切れの悪い人など。
 こうした人々との会議も合意形成には必要なプロセスだが、いつまでも続けては前に進めない。といって従来型リーダー依存による意思決定は避けたい。ネットワーク型組織を構築し、自律的自発的なファシリテーション型のリーダーに必要な技術が、豊富な事例とともに紹介されており、マンション管理に関心ある人、苦労している人に勧めたい一冊である。
  
 
●2005年1月の紹介
『マンションにいつまで住めるのか』

<著者>藤木良明(愛知産業大学教授)

<発行>平凡社

<価格>740円(税込)
 
 私たちが住むこの日本に、鉄筋コンクリート造りの集合住宅(分譲マンション)が出現したのは、まだ僅か50年余りである。他人同士が大規模に「一つ屋根」の下に棲むという文化的経験を持たない私たちにとっては、その場所に生起する多くの問題は、ときに建造物としてのハード面に片寄りながらも、まさに未経験の事象であり、なおかつ常に「私的・共有財産」や「法律」と密接に絡みながら「コミュニティー」の形成を迫られてきた。にもかかわらず、この50年、専門家による社会学的考察も殆どされなかった。
 私たちは「待ったなし」の現実と向き合う「智慧も経験」もないまま、「それぞれの現実を生きる」以外、選択肢はなかったといえる。
 こうした状況のなかで、建築学の専門家として藤木氏は、常に「マンション問題」の坩堝の中に身を置いてきた実学的経験を基に(事例が具体的)、歴史的社会学的に整理して考察している。内容も決して「マンション行政」に対して阿ることなく、むしろ批判的な視点から「マンションにおける集住と都市生活のこれからを考える」、概略の分かりやすい新書である。